想定外の…2.14vv
         〜789女子高生シリーズ

 


      


さすがに、ホワイトバレンタインデーなんて言う人はいなかったほど、
昼下がりからこっち、洒落にならない降りようとなった雪のせいだろか。
ホットなメニューも多数取り揃えております、甘味処“八百萬屋”さんも、
今日の客足は微妙に伸び悩んでおり。
早上がりだったそのまま、
お昼ご飯もそこそこにお手伝いに取り掛かった平八さえも、
暇を持て余してのこと、何十分も立ちん坊になったほど、
今日ばかりはお客様の出入りも薄く。

 「ヘイさん、今日はもういいぞ。」

今 暇な分も含めて、
もしかしたら夕方に立て込むかも知れない。
予約のあった和菓子を引き取りに来るお人もいるとかで、
なので、それまで休んでおいでと言われ、
はぁいと、笑顔つきの いいお返事をしつつ。
店内を見渡せるカウンター、
店用の調理場でもある定位置に立ってた五郎兵衛殿へ、
ちょっとちょっとと手招きをした平八だったりし。
注文も全部通っての今は手隙とあって、
何だい?と、それはざっかけなくも暖かい笑みと共に、
呼ばれた側へ素直に歩み寄って来てくださった偉丈夫へ。
ちょっぴり小首を傾けて、
うふふんと柔らかく微笑っていたひなげしさん。
あのねと口許へ片手を立てて、いかにもな内緒話の仕草をしたのへ、
察しのいい五郎兵衛さん、
はいはいと少ぉし屈んでの、高さを合わせてくださったところへと、
後ろ手にしていた手を延べると。

  内緒話を隠すための、手扇どころじゃあなく、
  雄々しいばかりの首っ玉までという懐ろの内へ

ひょいと間近へ寄って来た、
柔らかな温みとほのかな甘い香り。
頬や鼻先がくすぐったいのは、
手入れの行き届いた彼女の赤毛が頬を撫でたからで。
そんな中へと延べられた、やはり温かな嫋やかな腕。

 “…え?”

少ないとはいえお客さんもいる店内で、
何をしでかすつもりの平八なのだか。
一向に読めないまんまの五郎兵衛、
とはいえ、これだけは言えるのが、

  下手に動けば、
  何がどう転がるか判らないという逼迫感

平八が小柄なことへ加えて、五郎兵衛自身が長身でもあり、
小さなお嬢さんの姿なぞ、
特に踏ん張らずとも…ちょこっとその身を傾けてかざすだけで、
こっちの身の陰へすっぽり覆い隠せてしまえるものだから。
周囲の目から、何やってるの怪しいなと思わせるのもまた いと容易い。
もはや中年、しかも男の自分はどう思われようが構わぬが、
まだまだ十代、女子高生という身の平八にだけは。
親元離れた“預かりっ子”でなくたって、
どんなささやかな疑惑もまとわせちゃあならないのが大人の責任。
日頃からも気を回しているというに、
しかもしかも……少なからずのそれとして、
好いたらしいとか憎からずとか思っている相手だというに、
そんな当人から追い詰められてちゃあ世話はなく。

 “う〜む、これは不意を突かれた。”

何がしたいか、こっちの懐ろに身を寄せて、
ごそごそしていたのは数秒ほどか。
甘い香りさえ罪作りだと、息を止めての我慢をすれば、

 「はい、出来ましたvv」

もういいよと、隠れんぼの常套句のように節をつけた言い回しがし。
やわらかな温みも すいと離れた。
そして、見下ろした胸元には、

 「…おお、これは。」
 「へへぇ〜ん。大したもんでしょうvv」

緑がかったカーキ色をベースに、
竹林や矢羽根などなど、
和風の柄生地でのパッチワークをアクセントにしてある、
木綿サテン地の丈夫そうなエプロンが掛けられており。
柔らかい生地なので動作に支障が全く出ず。
帆布などではない分の耐久性を考えたものか、
二重仕立てのリバーシブルなので、水気をよく吸ってくれそうだったし、
腰近くには、男性の大きな手でも余裕で入れられるポケットが、
頑丈な三重縫いで付いてもいてと。
あちこちにさりげない工夫がありの、なかなかに凝ってある逸品だ。

 「裁縫は苦手でしたが、
  出来るだけ直線縫いばかりの型紙を、久蔵殿に作ってもらいました。」

それから、布地の吟味はシチさんが。
厚手でも柔らかで、だけれど痛みにくい丈夫なの。
毛羽立ってると汚れが取れにくいからサテンの方がいいよとか、
いろいろアドバイスしながら一緒に買いに行ってくれましたしと。
他人の手柄をばかり並べるお嬢さんだが、

 「某(それがし)は大男だからの。
  それへ着せるものなぞ、大きすぎて大変だったろうに。」

直線縫いばかりだったから、
ミシンで がーっと一気に縫いましたと言うつもりが。
先んじてそうと ねぎらわれたその上に、

 「かたじけない。
  いや、ありがとう。大事に着ような。」

大きくて分厚くて温ったかい、
大好きなゴロさんの手のひらが、
赤毛の上へぽふぽふと乗っけられての撫でてくれたりした日にゃあ。

 『正気でいろって方が無理ですてvv /////////』

肩が びくくっと震えたそのまま、
身がすくんでの、お顔は真っ赤になるわ、
呼吸が速くなるわ、と。
そのままでいたら確実に引っ繰り返りそうだったので、

 「あ、や、あの、それじゃあ、あの、わたし……。////////」

ほんのついさっき、
大胆にも抱き着いたも同然だったことへの自覚はなかったものか。
しどろもどろになりながら、
それでも何とか住居用の出入り口のほうへと向かうと。
きゃ〜〜んんvvvvっと声なき声を上げながら、
お二階へ駆け上がったひなげしさんだったそうでございます。

 「……………お。」

エプロンのポケットに入れてあった、
お手製マカロンの説明を忘れていったので、
残念ながら 減点1でしょうか。
(おいおい)


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